「ホビロン」という食べ物があります。
東南アジアでは、私の知る限り、ベトナム・ラオス・フィリピンでポピュラーです。
ちなみに「ホビロン」というのはベトナム語で、各国に各国語で名前があります。
外国人向けのレストランにはまあ出てこない、
言ってみれば屋台料理のようなローカルフードです。
今日はこのホビロンについて書きますが、世界にローカルフードが数ある中、わざわざこれを取り上げて書くには理由があります:
- 見た目のインパクトがあまりにも強烈(一度見たら忘れられない)
- 見た目のエグさだけでなく、正味、美味しい(決してゲテモノではない)
- これを食べる場では、地元の人との距離が縮まる(旅の幅が広がる)
食べたことのある人はもちろん、
存在を知っている人も少ないかもしれませんが、
ホビロンとはこういう食べ物です。
ホビロンの実態
外観はこんな感じです:
一見、何の変哲もない卵です。
ホビロンとはアヒルの卵です。
が、これは私たちが普段食べている無精卵ではなく、有精卵。
つまり、中にはヒナが育っているわけです。
殻をむくと、中身はこんなものです:
(見たくない人は見ない方がいいです)
私は自他共に認めるゆで卵好きなので、
それ系にはちょっとウルサいです。
このホビロン、「見た目のわりにはうまい」という程度のものでは決してない。
純粋に味覚として、すごくおいしいんです。
「旅の思い出に変わったものを」とか
「話の種になるから我慢して食べておきましょう」とかいうんじゃなく、
「その美味のために、ぜひ口にしてみましょう」と、私はオススメできます。
見た目は確かにグロいかもしれません。
有精卵だけに成長しますから、その成長度合いによっては、産毛が生えてる子もいます。
血管が縦横無尽に走ってるのも少なくありません。
「味がどれだけ良くても、見た目が無理なら絶対無理」という方は、大変残念です。
でも、それほどではない方は、ここはひとつ目をつぶってでも一食する価値はあります。
味ですが、見事に卵と肉の両方の味がします。
しかも、両方のいいところの旨味だけが楽しめるという、
誠に都合のよい食べ物(と私は思います)
クセのようなものは全くありません。
まさに両方のええとこどり。
栄養価もかなり高いそうです。
よくできた食べ物ですよ。
なるほど東南アジア一帯で食べられるわけだ。
私はホーチミン市のベンタイン市場で初めて食べました。
一個食べてみてあんまり感心したので、
その場でさらに5つほど買い入れてホテルに持って帰り、
一気に食べ切りました。
5つあったら5つとも、育ち具合がそれぞれ違います。
「おっ、これはずいぶん育ってきてるな」と思わせるのもあれば、
まだ卵の領域から足を洗い切れてないのもある。
店によっては、生まれてからの日数別にして売られていることもあります。
卵に近い方がいいか、肉っ気の強い方がいいか、
食べる人の好みに応じて選べる趣向です。
まあ屋台なんかで出されるのは、
たいてい殻をむいてみるまでわかりません。
ラオスの田舎街の屋台で食べたやつなんかは、もはや毛むくじゃらになってました。
中から「毛玉!」が出てきてビックリしましたわ💦
とまあそんなリスクもありますが、この「育ち具合」というのも、見れば見るほど楽しみが深まります。
どの個体にも目はついています。
目から先に形成されるんですね。
一般のゆで卵では、白身の中に黄身が包み込まれています。
あの黄身が、個体の成長に伴ってググッと外に出てくる。それが内臓になるようです。
日数の違うのをいくつか食べてみると、成り立ちがわかります。
他方、白身は肉になるようです。
ホビロンの白身はゆで卵のそれよりもずっと歯ごたえがありますが、それは肉になりかけてるからなんですね。
食べておいしい上に、食べながらいろいろ考えると、
勉強になることや納得することが多くて、頭も気持ちよい。
肉と卵の両者が一体になって、味覚と頭の両方を楽しませてくれるという、
ホビロンの一石二鳥は二重構造になっています。
これを食べる時の注意を一つだけ。
無闇に殻をむいてはいけません。
殻の内側には、ヒナ卵だけじゃなく、
にじみ出たエキスがスープになって詰まっています。
それを一滴たりともこぼしてはならないからです。
このスープ、実にいいお出汁が出てますから、
こぼすともったいない。
まずはてっぺんの方の殻を少しだけむくのがいいですね。
西洋の貴族の朝食のゆで卵みたいに、
卵と一緒に出てくるスプーンでコンコンと叩いてヒビを入れます。
そして注意深くはがす。
この時、薄皮を破らないように気をつけること。
殻だけを薄皮からそっとはがすような感覚です。
達人の域に入った地元の人のむき方を見ていると、
いきなり薄皮ごと殻をむいてもスープがこぼれる気づかいはありません。
でも、初心者たる旅行者は別々にむいた方が無難です。
で、適度な面積の殻をはがして薄皮を露出させたら、
決して焦らず、
態勢を十分に整えた上で、
指先を使っていよいよ皮を破ります。
すると破った瞬間にスープがあふれ出してくるので、
すぐさま口をあてがってスープを吸い尽くします。
かなり熱いので気をつけてください。
あんまり強く吸うと、内部の圧力が低下して卵全体に内側からピシッとヒビが行くことがありますが、
スープがこぼれない限り、それもよいでしょう。
あまり上品でない食べ方だと思うかもしれませんが、
ラオスでは至って普通の光景なので、
自意識を過剰に持つ必要はありません。
ヴィエンチャンの川沿いでは、
お父さんに殻をむいてもらったところへ、可愛い女の子が間髪入れず吸いつくという
微笑ましい光景もあったくらいです。
スープを飲んでしまった後は好きなように食べていただいて結構です。
まあ、殻を器がわりに残しておいて、
スプーンで中身をすくい取って食べるのがエレガントなんでしょうが、
全てむいてしまってから手でつまんで食べてもかまわないでしょう。
塩コショウとハーブがついてくるので、それはお好みで。
ただ、このシュッとしたハーブだけは、雑草の味がするから、私はややニガテです。
ベトナム・ラオス・フィリピンでポピュラーと言いましたが、
市場を探せば売ってる店が見つかります。
フィリピンではスーパーマーケットで見つけたこともありました。
ラオスでは、メコン川沿いの屋台で食べられることも多いです。
これ、ゆで卵ではなく蒸し卵なので、蒸し器に入っています。
屋台を冷やかしていて蒸し器らしきものを見かけたら、
「すみませーん」とフタを開けさせてもらいましょう。
ブタマンでなければ、まあホビロンでしょう。
ベトナムでも、路上に出ている屋台で取り扱っていることがあります。
ホーチミン市では、ご飯ものや麺類ではなく、ビール飲み屋的なおつまみ屋台に、
貝や簡単なシーフードなんかと一緒によく置いてます。
夕方になると歩道で営業を始めるクチです。
たかが卵、所詮はB級グルメです。
確かな美味とはいえ、
「うなるような超美味」というほどのシロモノではありません。
でも、掘り下げれば掘り下げるほど、
何かと楽しみの増えていく食べ物です。
ぜひ探してみてください。
旅先で何かを探していると、探し物とは全然関係ない、まったく別の楽しみに、ふと出会うこともあります。
そういうのもいいものです。