高速バスの安全性はここで決まる! 知っておきたい旅行業界の裏事情

私は旅行業界の人間として、長距離バスツアーの企画をしています。
夜行バスのツアーなので、安全なバス会社選びには気をつかっています。

結論から言うと、高速バスについて「安かろう悪かろう」は、ある程度、当てはまります。
が、その前に、そもそもバスの料金というのはどうやって決まるのかというカラクリは
旅行者としても知っておいていいと思います。

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バスの料金はこうして決まる

少しさかのぼりますが、私が旅行会社に勤務していた2014年の4月のこと。
県のバス協会から「貸切バス新運賃料金説明会」というのをやるという案内を送ってきたので、行ってきました。

そもそもバスの運賃料金というのは、路線バスはもちろん、貸切の場合も、
バス会社が完全自由に決められるものではありません。

バスの運賃というの届出制になっています。
運行距離と時間に応じて、バス会社が上限と下限、つまり最高額と最低額を決めて、役所に届けるわけです。
で、その値段表にOKをもらわないと営業ができない制度になっています。

もちろんその最高/最低額というのは、
役所が定めた計算方法で算出しなければいけません。

逆に言うと、その幅の範囲内であれば、
バス会社は自由に料金を出すことができるという仕組みなのです。

実際のところ、貸切バスの見積りを複数取ってみると、
同じ行き先でも会社によって料金がいくらかちがいます。

それはあくまで、役所がOKを出した料金幅の中でのバリエーションだ
――ということになっているわけです。

建前上は。

役所の決めるその料金の計算方法が、
2014年4月から「新運賃料金」という枠組みに変わりました

私の出席した説明会というのは、その新しい計算方法について、
役所の担当者が説明するという場だったのです。

バス料金が大幅アップされた理由

この説明会のポイントを、私なりに理解したところでまとめると:

1.バスの新しい運賃料金制度(計算方法)ができた
2.この新制度は、バスの安全運行のために必要なコストがいくらかという観点に基づいて設計されたものである
3.新制度によって算出する運賃料金は、概してこれまでのものより上がることになる

会場はバス事業者と旅行業者とで満杯でした。
そこへ運輸局の担当者が来て、上のような説明をするわけです。

まあそれはそれは、ものすごいインパクトのある説明でしたね。
何しろ、要するに「大幅に値上げとなります」という主旨なんですから。

で、説明が一通り終わったあとは、大盛り上がりの質疑応答会。

バス会社: こんな高い料金では、受注してもらえない。どうしたらいいのか。

バス会社としてはこれまでより料金を多い目に取れるわけやからいいじゃないか
――とはなかなか行きません。
発注する旅行会社側にも財布の都合があるからです。

旅行会社: いま20万円ほどで仕入れているバスが、新制度で計算してみると、約30万円ということになる。これではバスツアーを作れない!

新制度に則ってバス代を計算すると、
本当に1.5倍くらいは上がるケースはザラに出てきます。

旅行業者としては、バスの仕入れ値がこれだけ上がると、
その分はやはり旅行代金に上乗せせざるを得ません。

で、その値段をお客さんが
「高い! いらん!」
と感じてしまったら終わりなわけです。

計算上はいくら採算の取れるツアーを企画してみても、
実際に売れなければ何にもなりません。

旅行会社: 急にこれだけ値段が上がるなんて、お客さんに説明のしようがない! 役所からメディア等を通じて消費者にちゃんとPRしてくれ!!

旅行会社というのは、言ってしまえば仕入れ値と売値の間のマージンを取るのが仕事です。
仕入れ先であるバス会社とと消費者との板挟みにハマるのは常のこと。
つらい立ち位置なんです。

募集型のバスツアーをメインでやってる旅行会社にとって、
仕入れ値が1.5倍も上がっては存亡の危機です。

そもそも、なぜいきなりこんなに高い値段になるのでしょうか?

一言でまとめるなら、

「高い値段になる」わけではなく、
「これまでが安すぎた」だけだ

ということです。

この新制度ができる2年前の2012年、
関越道でツアーバスの大事故が起こりました。

運転手の居眠りが原因で起こった事故で、
7人の方が亡くなりました。

この事故が大きな社会問題となり、
それを直接的なきっかけとして、
2014年の新制度が生まれたわけです。

運賃料金の計算方法を見直せば、事故は起こらない。

つまり、バスの事故が起こることと、
運賃料金の制度とは
大きな関係があるという見方なのです。

これはどういう意味なんでしょう?

バスの安全は何で保証される?

バスを安全に運行するには、まず運転手さんをゆっくり休ませなければいけません。
これは長距離や夜行のバスならなおのことです。

ところが、旅行会社や一般のお客さんから料金を値切られ、
薄利多売で走らせなければ会社が回らないような体質が染みついてくると、
運転手さんは文字どおり休む間もなく働かなければならなくなります。

そうなれば、運転中に居眠りだって、それは、してしまいます。
人間だもの。

その構造から改めていこうではないかというのが、
新制度の狙いというわけです。

運転手さんの健康的なシフト回しも含めて、
安全に走らせる体制を維持するためには、
バス会社にどれくらいの収入が必要なのか。

一回の運行ごとに、一体どれくらいのコストがかかるのか。

それをまかなうことのできる必要にして十分な額を、
バスの最低料金として設定しようじゃないか。

ということで、国が有識者を集めてグループを立ち上げ、
運賃の算出方法など、新しい制度を整えましたという経緯です。

新制度で「高い値段になる」わけではなく、
単に「これまでが安すぎた」だけだ
というのは、そういうわけです。

これ、真っ当な方法だと私は思います。

あとは実際問題だけ。
いざ導入してみて、果たして理念どおりにちゃんと定着するのか?
ということです。

新制度のスタートから、もうすぐ3年。

私の見るところ、それなりには定着しています。

バス会社の出す値段は、
どこも前より高くなりました。

ただ、新運賃をちゃんと守っていない会社もあるんだろうなあという気も
うっすらとはしていました。

そこへ軽井沢のバス事故が起こりました。

旅行者はどう対応すればいい?

少なくともあの事故を起こしたバス会社と、ツアーを作った旅行会社は、
新運賃を守っていなかった。

制度の禁じる最低料金よりも安い価格で、
バスを走らせていたわけです。

軽井沢の事故の場合、「安く走らせる」ことのしわ寄せは、
運転手さんの質に跳ね返ってしまっていたようです。

実際に起こってしまったこの事故が示すように、
新制度が定着し切ることは難しいように思います。

つまり、世の中に出ているバスサービスの中には、
無理を押しても安い値段で走らせている会社が混じっているということです。

高速バスを安全に利用するために、
私たち旅行者はどうすればいいのか?

「ちゃんと選ぶ」しかありません。

どの点に注目して、
何に気をつけて、
バス会社を選べばいいのか。

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